ショートショート 希望注射

「おめでとうございます、ドーパミン処方が認可されました」

医師が笑顔で言った。

この国ではもう、薬でしか希望を見れなくなっていた。
戦争、気候変動、失業率の上昇、インフレ。ニュースを観れば絶望のオンパレード。

そんな中、政府が導入したのが「希望注射」。
週に一度、ドーパミンをちょっと多めに脳に流し込むだけ。

「あら不思議。明日がちょっと楽しみに!」

彼も最初は疑っていた。だが、注射を打ったその日の午後、
彼は久しぶりに「やりたいことリスト」を書き始めていた。

・そばを手打ちで作ってみたい
・読んでなかった小説を読破したい
・貯金をして旅行に行く(どこか暖かい島)

翌週、また注射。
また翌週、注射。

希望は、少しずつ積もった。未来のイメージが明るくなるたび、今日という日が少しだけ愛おしくなった。

ある日、病院のスタッフがこう尋ねた。

「もし注射をやめたら、どうなると思います?」

彼は答えた。

「たぶん……本当の意味で希望を信じてるか、試されるんだろうね」

そして、翌週から彼は注射をやめた。

未来が見えるかどうかは――
自分の中の“希望”を、信じられるかどうか……。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

0 0 votes
Article Rating
Subscribe
Notify of
guest
0 Comments
Oldest
Newest Most Voted
Inline Feedbacks
View all comments
目次