ショートショート 最後の作戦

作戦開始から36時間が経過していた。
廃工場の地下、通信は途絶え、仲間の姿も見えない。

「……お前だけか。生き残ってるのは」

レオンは銃を下ろし、傷だらけの仲間――アイラに近づいた。

「そう、あたしだけよ。他の連中は……全員やられた」

レオンは警戒を解かない。
この作戦には、敵の“内通者”がいるという情報が事前に入っていた。
誰かが裏切った。――それだけは確かだった。

「君が裏切ったんじゃないのか?」

「は?」

「敵の包囲網の薄いポイントを的確に突けた。罠を知らなければ不可能ではないのか?」

「……レオン。あんた、疑ってたの?」

「最初からな」

彼はゆっくりと銃を構えた。

「ちょっと待って」アイラが手を上げる。

「あんたは裏切り者の存在を誰にも言わなかった。誰が怪しいとも教えなかった。」

「……だからこそ、裏切るには最適だったろ」

「でも、あたしは裏切ってない!」

「証拠は?」

アイラはそっとポケットからあるものを差し出した。
それは、レオンが“隊長だけに託したはずの”暗号キーだった。

「これ、隊長が死ぬ直前に託してくれた。『レオンに渡してくれ』ってね」

「なぜ今まで黙っていた?」

「敵がその存在を知ったら、あたしごと消しに来ると思ったから。……ごめん、信じられないのも当然よ」

レオンは黙って暗号キーを受け取り、それを小さな端末に差し込んだ。
作戦の真の目的が浮かび上がる。――全ては、アイラを“囮”にして真の内通者を炙り出す作戦だった。

「……まさか、俺自身も疑われていたとはな」

「ええ、隊長は言ってた。『最も信頼されている者こそが一番怪しい』ってね」

アイラが立ち上がる。
レオンはゆっくりと笑った。

「なるほど。俺がフラグを立てていたのか」

「ええ。見事に、ね」

二人は顔を見合わせて、地下通路を後にした。
それぞれの手に、銃と、まだ拭いきれぬ疑念を携えて――。

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