彼の名はリク。かつては広告代理店に勤め、毎日同じ通勤電車に揺られ、ガムシャラに働いていた。
ある日、ふと目覚めた朝、窓の外を風が通り過ぎた。
――こんなに風って、自由だったっけ。
その瞬間、リクはすべてを捨てた。
家も仕事も、肩書きも。
ノートPCひとつ、リュックひとつを背負って、彼は旅に出た。
モンゴルの草原、トルコのバザール、タイの路地裏カフェ――
Wi-Fiさえあれば、どこでも働けた。
クライアントの声はときに遠く、時差を超えて届いた。
だが彼は、自分の時間を“自由に選ぶ”ことができた。
ある日、彼は砂漠の町で、ひとりの少女に出会う。
「風に名前はあるの?」
少女の問いに、リクは首を振る。
「ない。でも、俺は風のように生きたいんだ」
少女は笑った。「じゃあ、あなたが名前をつけてあげればいいよ」
それから彼は、どの国の風にも名前をつけていった。
“始まりの風”“迷いの風”“楽しい風”……
それは彼自身の記録でもあり、軌跡だった。
旅の途中、時に孤独もあった。
けれど、どこにいても自分の意志で動ける。
それが「自由」だと、彼はようやく知った。
それがどこかは誰も知らない。
でも彼自身が、自分という自由な風になっていた。
