「誰だお前」
朝、歯を磨こうと洗面所の鏡を見た瞬間、思わずそう言った。
鏡には、確かに自分が映っていた。だけど――なんか、こう……違う。
眉毛の角度が妙に意志強そう。まぶたがやけに自信満々。
何より口元のニヤつきが腹立つ。俺って、こんな“勝ち組顔”だったか?
「いや、こんな顔してないよな? 俺、もうちょっと生活に疲れた表情してたよな?」
試しに変顔してみた。
変顔返してくる。OK、そこは一致。
ウインクしてみた。
ウインク返ってくる。うん、まだ大丈夫……いや、待て。
「え、なんか……お前のほうがウインク上手くない?」
なんか負けた気がして、1時間ぐらい鏡の前でウインクの練習した。
最終的に、鏡の中の自分にこう言われた気がした。
「もっと練習しろ。こっち側で待ってるぜ」
……仕事、遅刻した。
