中学生の咲良(さくら)は、何をやってもすぐに心が折れてしまう子だった。
部活でミスをすれば、「私なんていない方がいい」と泣き、友達に軽く冗談を言われただけで、「嫌われた」と思い込む。
そんなある日、学校の帰り道で古びた雑貨屋にふと足が止まった。どこか引き寄せられるように店に入ると、棚の奥に小さなガラスの瓶があった。中にはひとつの“種”が入っていて、タグにはこう書かれていた。
「この種を育てた者の心は、もう折れなくなる」
咲良は思わず買ってしまった。半信半疑だったが、家に帰って丁寧に鉢植えに埋め、水をやった。
だが、不思議なことに、その種はまったく芽を出さなかった。
1日、2日、1週間……。
咲良は「どうせダメなんだ……」と思いながらも、毎日欠かさず水をやり、声をかけた。
「今日も頑張ったよ……」「今日もちょっとだけマシになれた……」
1ヶ月後、彼女の部屋の片隅に、ようやく芽が出た。よく見ると、透明でガラスのような茎を持つ、小さな植物だった。
同時に、咲良の中で何かが変わっていた。
前のように、すぐに泣くことが減り、少しずつ、言葉を受け止められるようになっていた。クラスで意見を言ってみたり、部活でも「大丈夫、次がある」と仲間を励ましたり。
その変化に気づいたのは、担任の先生だった。
「咲良さん、最近強くなったね。何かあったの?」
咲良は笑った。
「ううん、ただ…毎日、折れそうな自分に、水をやっただけなんです」
