タカシは、狭い六畳一間のアパートで静かに座っていた。外では車のクラクションが鳴り、どこかの家のテレビの音が漏れていたが、彼の耳には何も届いていなかった。
スマホも電源を切り、目を閉じる。
深く、深く呼吸をする。
吸って、吐いて。吸って、吐いて。
気づけば、目の前に浮かんでいたのは星だった。無数の星々。光の粒子が、漆黒の空間に瞬いている。
「——ここはどこだ……?」
彼は声を出さずに問いかける。しかし答える者はいない。ただ静寂。だが、不安ではなかった。不思議と心は穏やかだった。
すると、ひとつの星が近づいてきた。星は脈打つように輝きながら、タカシの中に入り込んでくる。
胸の奥が温かくなった。長年感じていた焦りや虚しさ、他人と比べてしまう自分が、光に包まれて溶けていくのがわかった。
彼は悟った。
「——宇宙は外にあるのではない。内にあるのだ。」
意識がゆっくりと戻ってくる。薄く目を開けると、天井のシミが神秘的に見えた。
それでも部屋は変わらず六畳だったし、外の雑音も戻っていた。だが、タカシの心だけは確かに宇宙を旅したあとだった。
