その国では、18歳になると「顔」を国に登録しなければならなかった。顔の美醜が、進学・就職・結婚にまで影響を与えるようになったのだ。
政府はAIを使って全ての国民の顔を1〜100の「視覚適合指数 (Visual Conformity index)」略して(VCI)で数値化した。数値が高い者は一流企業へ推薦され、低い者は接客業を禁止された。
ユイはVCIが「38」だった。つまり、下の上。
面接ではいつも「他に適任がいます」「あなたには裏方の方が合っているかもしれませんね」とやんわり断られた。鏡を見るたび、自分が国にとって価値がないと突きつけられているようだった。
だが、そんなユイにもたった一つだけ救いがあった。それは「匿名SNS」。そこでは顔が見えない。文章だけで人と繋がることができる。ユイはそこで「Elena」という名前で詩や短編を書き、人気を博していた。フォロワーは10万人を超えていたが、誰も彼女の顔を知らなかった。
ある日、政府が「SNS実名・顔写真義務化法案」を発表した。匿名性を廃止し、ネットでもVCIを表示するというのだ。
Elena=ユイは悩んだ末、フォロワーに次のメッセージを投稿した。
《私は明日、顔をさらします。それで私の詩の価値が変わるなら、それはしょうがない》
翌日、ユイの自撮り写真が公開された。
VCI「38」と明示されたその投稿には、最初こそ中傷や罵倒が殺到したが、次第に流れは変わった。
「顔じゃない」「感動したのはあの詩だ」「勇気に拍手を」
多くの人々が、初めて“中身”だけで何かを感じた瞬間だった。
そして数週間後、政府は匿名性を一部認める修正案を発表した。Elena=ユイの投稿が、その大きなきっかけになったと噂された。
