ショートショート 内なるランナーたち

朝6時。ミサトはベッドの中でうめいた。
スマホのアラームは、もう3度も鳴っている。
「運動しなきゃ……でも眠い……」
布団の魔力に負けかけたその時だった。

「立ち上がれ、ミサト! 今日はミトコンドリア増殖日和だ!」

頭の中に声が響く。え? ミトコンドリア?

「昨日のジョギングで、ATPの合成効率が5%アップしたんだよ!」
「今日も走れば、我々“内なるランナー”がもっと力を発揮できる!」

その声は、彼女の細胞の中に住むミトコンドリアたちだった。

ミサトが運動を始めて3週間。徐々に細胞が活性化し、
有酸素運動による“エネルギー効率の革命”が起きていた。

「でも、筋肉痛が……」

「筋繊維の微細な損傷こそ、我々の喜びだ!」
「修復に使うATPはすでに準備済み!」

彼女の中で、エネルギー工場がフル稼働を始める音がした。
起き上がり、ウェアに着替え、靴を履く。

「私が走ると、体の中で誰かが喜ぶ――それって、ちょっといいかも」

公園の朝の空気は冷たく、どこか誇らしげだった。

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