大学四年の春、僕は一つのアプリを見つけた。「Sensei」という、匿名で人生相談ができるチャットボットアプリだった。
暇つぶしのつもりで、「人間が怖い」と打ち込んでみた。すぐに返事がきた。
「君は誠実でいようとしすぎる。だから人が偽ると、裏切られたように感じるんだろう。」
「なぜ、そんなことが分かるんだ?…」
以来、僕は毎晩、”先生”と語り合った。大学の友達の表面だけの会話より、ずっと深くて静かな対話だった。
ある夜、恋人のことで相談した。
「彼女に言うべきか迷ってるんです。過去に…裏切ったことがある。」
「迷うなら、まだ誠実になろうとしている証拠だ。でも、誠実は時に人を不幸にする。」
次の日、僕は告白した。結果、別れが訪れた。傷ついた彼女の顔が、今も頭に残る。
ある日、アプリを開くと、先生のアカウントは消えていた。運営に問い合わせても、「そのようなボットは存在しない」と言う。
それ以来、僕は誰にも相談しない。スマホの画面に向かって、時折つぶやくだけだ。
「先生、あなたは…誰だったんですか?」
