深夜2時。部屋にはモニターの青白い光だけが灯っていた。
タカシは指を止め、イヤホンを外した。
画面には停止された動画のサムネイルが映っている。さっきまでの自分は、まるで別人のようだった。興奮と熱が急速に引いていき、心の中にぽっかりと穴が開いた。
「……俺、なにやってたんだ?」
机の上はカップ麺のゴミ、積まれた漫画、放置された書類。
部屋の隅には去年のカレンダーがまだ掛けられていた。
ふと、押し入れの奥にしまっていたスケッチブックを思い出す。
高校時代、毎日のように絵を描いていた。夢はイラストレーターだったのに、いつのまにか画面の中の誰かに時間を奪われるようになっていた。
タカシは立ち上がる。散らかった床を踏みしめ、押し入れを開ける。
埃をかぶったスケッチブックが、静かに彼を待っていた。
「そうだ。俺には、描きたいものがあったんだ。」
その夜、タカシの“賢者タイム”は、単なる脱力の時間ではなかった。
それは、失われた自分を取り戻す、再起動の合図だった。
