マコト、三十五歳のサラリーマン。
毎朝、満員電車に疲れ果て、職場では些細なミスを責められ、夢も情熱もとうに失っていた。
ある晩、偶然立ち寄った古本屋で、一冊の奇妙な本に目が留まった。
表紙には、こう書かれていた。
『潜在意識の奇跡──眠る力を目覚めさせよ』
半信半疑でページをめくると、印象的な一節があった。
「潜在意識は、命令に忠実な召使いだ。“自分は成功する”と信じきれば、世界が従い始める。」
それから毎晩、誠はベッドに入る前に繰り返した。
「自分は価値ある人間だ。理想の人生が、すでに始まっている。」
3日目、何も起こらなかった。
7日目、ほんの少しだけ、同僚との会話が増えた。
10日目、上司に「最近、雰囲気が明るくなったな」と言われた。
気がつけば3ヶ月後、彼は新規プロジェクトのリーダーに抜擢され、部下からの信頼も得ていた。
不思議だったのは、何も劇的な変化があったわけではない。ただ、「自分はできる」と思い込んだだけなのに、周囲がそのように反応し始めたのだ。
ある夜。マコトは、不思議な夢を見た。
大きな金庫が目の前にある。鍵はない。だが彼が「開く」と念じると、ゆっくり扉が開いた。中には、ずっと探していた宝があった。
目覚めた彼は、微笑んだ。
「鍵なんて、最初から必要なかったんだな。」
