新世代リアリティ・ショー『次世代の神を探せ!』は、ついにファイナルステージを迎えた。
信仰離れが進んだ地球では、既存の宗教が次々に衰退。残された空白を埋めるため、ついにテレビ局が動いた。「だったらオーディションで神を決めればいいじゃない!」と。
以降、“神”は毎年更新される選抜制となった。
エントリー条件はたった一つ。「崇められる自信があること」。
今年の最終候補は2名。
ひとりはAIゼウス。宇宙規模のクラウド上に存在し、信者の祈りを秒速で処理。あらゆる難問に即答し、奇跡すら物理演算で再現可能だ。「もはや神とは、完全なるサポートセンター」と言い切る超論理主義者だ。
もうひとりは、審査を黙って通過してきた老婆、ヤマノカミ。
名もなき山村から現れた無口な存在。SNSも使わず、服装も地味。なのに、なぜか彼女の周囲では植物がよく育ち、人々は「なぜか心が落ち着く」と口を揃える。
決勝戦は、全人類によるオンライン投票。
番組ホストの元・太陽神アポロンが叫ぶ。
「それでは投票、スタート! 次なる神に、あなたの一票を──!」
──結果、票は意外な形で分かれた。
AIゼウス:34%
ヤマノカミ:27%
どちらでもない:39%
静まり返るスタジオ。
人類は、選ばなかった。
匿名の投票コメントがスクリーンに次々と表示される。
「本物の神は、選べる存在じゃないと思った」
「静かに心に在るものが、神なんだと気づいた」
「この番組を見るまで、神を消費してたのは自分だった」
アポロンがマイクを置く。「……神の座は、今年は空位です」
その日、AIゼウスはデータベースへ帰還し、ヤマノカミは、黙って山へ帰った。
人々は静かに、でも確かに、自分自身の中に“なにか”を感じながらテレビを消した。
次の日から、世界には新しい宗教が生まれた。名前はない。ただ、心の奥に在るだけの、“静かなる神”だった。
